PCRの原理

PCRの原理

PCRは非常に基本的な技術です。PCRはPolymerase chain reactionの略であり、簡単に言うと特定の遺伝子領域を増幅することを言います。「特定の」という意味は、あらかじめ増幅する場所の塩基配列を知っておく必要があるということです。

まずPCRの基本原理を説明します。DNAを増幅するにはポリメラーゼが必要です。ポリメラーゼとは以下に示すようにDNAの欠けた部分をコピーしながら伸ばしていく酵素です。

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しかしこのポリメラーゼ、DNAにくっついてDNAを伸ばすことはできても何もないところに材料だけ与えられてもDNAを作ることができません。そこでPCRでは特定の配列をこのポリメラーゼに増幅させるために、ポリメラーゼが増幅を開始する開始点を用意してあげなくてはなりません。これをプライマーと言います。プライマーは20塩基程度の塩基配列です。このプライマーが(哺乳類のゲノムであれば)60億の塩基配列の中の狙った領域に特異的に結合し、そこからポリメラーゼが伸長を開始することで増幅が始まります。以下に示すのがPCRの全体像です。

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PCRは水素結合で二本鎖になったDNAを一本鎖にするところから始まります。このステップはDNAを高温にすることで達成されるのでDenaturation(変性)と言います。

次は一本鎖になったDNAにプライマーを水素結合させるために温度を下げます。このことをAnnealingと言います。Annealingの完了によって酵素がDNAを作る準備が整いました。

DNAにAnnealしたプライマーを開始点としてポリメラーゼがExtention(伸長)を行います。このときAnealling温度より少し温度を高くします。これは酵素の特性と関係しています。PCRでは熱に強いタイプのポリメラーゼが用いられます。私たちの体で働いているポリメラーゼは実は熱に弱くて何度も温度を上げたり下げたりするPCRには向きません。PCRの発見において、PCRの仕組みを思いつくのもすごいことですが、熱耐性を示すポリメラーゼの発見もまた非常に重要だったわけです。

少し脱線してしまいましたが、伸長が終わるとまた初めに戻ってDenaturationからです。これを30サイクル程度行うと、ゲノム上の狙った部分が2の30乗ほど増幅されるというわけです。

PCRの使いどころ

PCRは主にGenotypingやシークエンスに用います。Genotypingとは動物の遺伝子型を調べることを言います。マウスだとしっぽや指、あるいは耳の一部を切り取ってきて、その組織からゲノムを抽出してPCRを行います。ゲノムをtemplate (鋳型)として行うPCRなのでGenome PCRと言うこともあります。シークエンスはPCRの変わり種で、サンガー法をはじめとする多くの手法でこのPCRの原理がDNAの塩基配列を決定するのに役に立ってきました。Sequencing PCRと言ったりします。

ということで今度はgenotyping PCRについて解説していきます。

下の図を見てください。

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上はWild type(野生型)で下は遺伝子の最後にGFP遺伝子を挿入したものです。

【補足】

GFPはGreen fluorescent proteinの略で緑色に光る蛍光たんぱくです。GFPはこのように遺伝子のお尻にひっつけることで遺伝子の発現状況を視覚的に認識できるので分子生物で汎用されている方法です。

【補足終わり】

これは単なる例ですが、genotypingとはこのように遺伝子型の異なった個体を識別する方法です。

PCRで増幅する場所はPrimer プライマーによって決まります。Primerは20塩基くらいの短いDNAでforwardとreverseの二つあり、その2つに挟まれた領域が特異的に増幅されます。この20塩基程度の配列はどこにでもあるような配列ではなくゲノム上にたった一カ所にしかないような特異的なものでなければなりません。このプライマーの設計がPCRの成功に大きく影響をあたえます。

先ほど用いた例をそのまま使って実験を行います。

Wild typeかGFP挿入型か未知のマウスのゲノムを用いてgenotypingを行います。コントロールのマウスのDNAも用意しておきます。コントロールとはこの場合、GFP挿入型であることが既知のマウスとGFP挿入型でないことが既知のマウスです。

プライマーは図に示した位置の配列を用います。するとGFP挿入型の増幅されたDNAよりWild typeのゲノムから増幅されたDNAの方がGFPの分だけ短いことがわかります。genotypingではこの長さの差を検出することになります。

アガロースゲルにPCRで増幅されたDNAを注入して、電気泳動を行います。下を見てください。

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DNAはマイナスに帯電しているので電圧をかけるとゲルの中をマイナスからプラス方向へゆっくりと移動します。

そして、「大きいDNAの方がゲルの中を移動する速度が遅い」のでサンプルごとにDNAのスタート地点からの距離を見ると短い方がたくさん進んでいることが分かります。コントロールのPCR産物と距離を比べてぴったり一致した方をそのマウスの遺伝子型とします。上の図ではUnknown①とUnknown③がGFP挿入型でUnknown②がWild typeということになります。

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