Current clamp法のデータの見方

 

今回はwhole cell current clamp法について解説してみたいと思います。前回までに私が書いた記事のwhole cell voltage clamp法の説明とぜひ比較してみてください。

 

biologyhouhou.hatenablog.com

 

Whole-cell current clamp法のデータを読む

Whole-cell current clamp法とはその名のとおりwhole cell patch clamp法のうち細胞に入る電流を固定することで細胞内の電位を計算により推定する方法です。活動電位の波形を見たことある方もいると思いますが、それはおそらくwhole cell current clamp法のデータでしょう。活動電位を測定する実験にはほかに細胞外電位記録という方法があります。これはwhole cellとは異なり細胞のそばに電極を置いて記録を行う方法で、patch clamp法とは全く異なります。

模式的に書くとwhole cell current clamp法で記録した活動電位は図のようになります。

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 上図は二つとも横軸を時間でとってあります。縦軸は電流の大きさ、または細胞の膜電位です。細胞の膜電位を特定の値に維持するために細胞に注入する電流を保持電流と言います。上のパルスは、例えば-60mvや-70mVといった深い膜電位に保持するための電流を流している状態で、脱分極させる方向の電流を流してまた元の保持電流に戻すというプロトコルを示します。下の電位記録は上のプロトコルを実行した場合の細胞の膜電位の記録となります。電位依存性Naチャネルがたくさん発現している細胞は膜電位が閾値を超えて脱分極すると活動電位を示します。よってパルスに反応して脱分極した細胞はある瞬間から突然活動電位をおこします。それが赤線で示したスパイクとして記録されます。

活動電位の波形はWhole cell current clamp法のデータのうち古典的かつ代表的なデータです。活動電位のスパイクのデータを見たら、current clampかな?と思ってみてもよいでしょう。

活動電位の波形を解析することで様々なことがわかるのです。分かりやすいところでいうと、活動電位の発生頻度です。同じ電流を注入したとしても下図のように、細胞によってバリバリと非常に高頻度で発火する細胞もあれば、5Hzとか非常に遅い頻度で発火する細胞もあります。

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また、活動電位を引き起こすチャネルは主に電位依存性Naチャネルであることが知られていますがそこに電位依存性Ca2+チャネルも加わってくるとスパイクの直後に脱分極をより長く維持するような電流が流れます。心筋細胞の活動電位などがそれでスパイクに肩がついたような波形を示します(下図)。

 

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それから活動電位と言うと鋭いスパイクの後に続く過分極相が特徴的ですが、過分極相の形も細胞の特性を知るうえで非常に重要です。細胞に発現しているチャネルの種類によって過分極相が非常に長いものもあれば、すぐにもとの静止膜電位(実験中は静止膜電位とは限りませんが、)にもどるようなものもあります。上図は活動電位の過分極相の形の違いを示してみました。

電気生理屋は波形の形にとても敏感です。優秀な人はちょっとした波形の違いも見逃さず、またその違いについての考察もすばらしいです。