Subscribed unsubscribe Subscribe Subscribe

トランスジェニックマウスはどうやって作られるか

トランスジェニックマウス作成は分子生物学の中で非常に基本的かつ重要な技術であり、生物学を勉強するなら概要はしっかり把握しておくべきでしょう。

そして締めくくりに新しいゲノム編集の技術であるCRISPR/Cas9 systemについて、こちらも少しですが説明させていただきます。この技術は従来に比べてトランスジェニックマウスを非常に早く作ることを可能にしました。

それでは手順を追って説明していきます。

トランスジェニックマウス作成の手順

① まずトランスジェニックマウスを作るためには目的の遺伝子が組み変わった細胞を用意しなければなりません。しかもその細胞はES細胞という特別な細胞である必要があります。ES細胞は多能性幹細胞の性質を持っていてどんな細胞にも分化することができます。

② 用意した遺伝子組み換えES細胞を受精卵に注入します(インジェクションといいます)。そしてその受精卵からマウスが生まれます。

③ 生まれたマウスは遺伝子組み換えが行われた細胞と野生型の細胞の二種類の細胞から成るマウスです。このマウスをキメラマウスと呼びます。

④ 遺伝子組み換え細胞を持つキメラマウスと野生型のマウスを掛け合わせることでヘテロマウスを作ります。細胞には一対(二つずつ)の遺伝子が存在しますが、その二つが同一ではない場合にその遺伝子がヘテロであるという言い方をします。つまりこの場合のヘテロマウスは、二つある遺伝子の一方が野生型で一方が遺伝子組み換え型の遺伝子である細胞からなるマウスということに意味しています。キメラとの意味の違いに注意してください。

⑤ こうして生まれたヘテロマウス同士を掛け合わせて目的の遺伝子組み換え細胞のみから成る純粋な遺伝子組み換えマウス(これをホモと言います)を得ることができます。

 

①について補足

目的の遺伝子が組み変わった細胞をつくることをtargetingと呼びます。目的の遺伝子を狙うことからそう呼ばれています。

targetingを行うにはtargeting vectorを用意する必要があります。下の図で示すようにtargeting vectorとはプラスミドの中に”新しく挿入する塩基配列”とそれを挟むように配置されたhomology armが含まれたプラスミドのことです。homology armとは図の緑とオレンジで示した領域のことでGenome DNAと全く同じ塩基配列となっています。Homologyは相同という日本語で表され、全く同じ塩基配列という意味です。このHomology armとゲノムDNAが横並びになるとtargeting vector塩基配列とゲノムDNAの塩基配列が入れ替わるという現象が起こります。これが相同組み換えと呼ばれる仕組みです。相同な配列を利用する組み換えなので相同組み換えと呼ばれます。f:id:emuqcqkihw:20160508130041j:plain

相同組み換えが起こる確率は非常に低いです。ですから相同組み換えが行われていない多くの細胞の中から相同組み換えが狙い通り起こった細胞を探すことは難しく、実験上問題となります。その方法については今回は触れません。

 

②について補足

遺伝子組み換えES細胞が確認できたら今度はそのES細胞を増やします。分裂させてある程度量を確保します。用意したES細胞を、とても細い針の中に吸引して受精卵の中に刺し注入します。

 

 

CRISPR/Cas9 systemについて

CRISPR/Cas9 systemとは中国のFeng Zhangという有名な研究者が2011年に初めて発表してから現在も急速に研究が進んでいるゲノム編集という技術です。

ゲノム修復機構にはいくつか種類が存在しますが、傷ついてない方の塩基配列を鋳型として修復する相同組み換えが最も正確な修復機構となります。相同配列を利用する組み換えなので相同組み換えと呼ばれます。つまり遺伝子組み換えとは、遺伝子修復機構の一つである相同組み換えを利用した遺伝子操作のことを言います。

そして従来の方法では相同配列を持ったtargeting vectorを細胞の中に入れて、偶然相同組み換えが起こるのを待っているというものでした。これだけで、この方法がいかに効率の悪いものかお分かりいただけると思います。

CRISPR/Cas9 systemを用いると、ゲノムに傷をつけることができます。しかも狙った場所特異的に傷をつけることができます。ではtargetingを行う際にこの技術を用いて、相同組み換えが起こってほしいゲノム上の領域に傷をつけると何が起こるでしょうか。

そうです。ゲノム修復機構が働くのです。これがFeng Zhangの発見だったわけです。

ゲノム修復機構が働くということはtargeting vectorの相同配列を利用した相同組み換えが起こる可能性が高くなるということですから、それまで非常に効率の悪かった遺伝子組み換えES細胞を作る過程がスムーズにいくようになったのです。

 

 

Remove all ads