PCRで使われる酵素について

 

TaqとKOD

PCRで使われる酵素は耐熱性のDNAポリメラーゼで、現在よく利用されているものでは大きく分けてTaqとKODの二種類があります。

好熱細菌のThermus aquaticusから単離されたポリメラーゼなのでTaqという名前がついています。Taqは走り屋として知られ、DNAの伸長速度が速く、DNAの増幅が安定しているためgenotypingに用いられます。

KODはTaqよりも少し高級なポリメラーゼとなります。違いはずばりproof readingと呼ばれる機能です。Proof readingとはDNA伸長過程においてポリメラーゼが正しくない塩基を誤ってつなげてしまった場合に、伸長するのを一旦ストップした上で直前の塩基を分解し、その部分の伸長をもう一度やり直すという機能のことです。ポリメラーゼは5'→3'方向にDNAを延長させていくことはご存知だと思いますが、5'→3'の方向にDNAを分解することもできます。そしてKODなどproof readingの機能活性をもつポリメラーゼは特に3'→5'方向にDNAを分解する活性をもちます。このことを3'→5'Exonuclease活性と呼び、proof readingの核となる酵素活性です。

Taqは走り屋なので振り返らずにただひたすら前を見て伸長するのみですが、KODは伸長したらそれが正しいかどうか逐一チェックします。つまりKODの方が正確な増幅に長けていると言えます。KODのように正確で高価なポリメラーゼは主にクローニングで用います。遺伝子をミスなく正確に増幅することが必要だからです。

それぞれのポリメラーゼがミスマッチを起こす頻度というものは報告によって違うので企業のホームページなどを参照してみてください。以下の東洋紡ライフサイエンスのホームページではエラー率が分かりやすく載っています。

東洋紡ライフサイエンス事業部 / 高正確・高効率・高速PCR酵素 KOD -Plus- Neo

TAクローニングとTaq

あとTaqにはもう一つ有名な性質があります。それは伸長の最後、3'末端にdATPを一塩基付加するという性質です。対となる塩基がないにも関わらずTaqは最後に一塩基付加するのです。この性質によりTaqを用いたPCRによって得られるPCR産物はすべて一塩基のオーバーハングをもつことになります(オーバーハングとは二本鎖DNAの片方が突出しているという意味です)。Taqによってできるオーバーハングを利用したTAクローニングというクローニングの手法があります。TAクローニングは古典的かつ、いまでもよく行われている方法です。また今度詳しく解説させていただこうと思います。