いろいろあるよイオンチャネル① K+チャネル

K+チャネル

 

「いろいろあるよイオンチャネル①」ではK+ channelについて学習しましょう。K+ channelはPotassium ion channelと読んでください。

■ K+チャネルの構造

基本的にK+ channelは同一のサブユニットが四つ集まって一つのチャネルを作ります。

そしてK+ channelのサブユニットには必ず次のような構造が存在します。それは、二つの膜貫通セグメントとそれを細胞外側から結ぶ短いループ(P Loop)です(下図左)。これがK+ channelのトレードマークです。下図左のように、Inward rectifiersと呼ばれるタイプはK+ channelの基本構造のみで構成される最もシンプルなK+ channelです。

この基本形にプラスアルファで構造が増えると、例えば下図右のようにCa2+-activated K+ channelになったりあるいはVoltage-gated K+ channelになったりします。Voltage-gated K+ channelではS4(下図で黄色く塗られたセグメント)がvoltage sensorとして機能します。

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P loopによって結ばれた二つの膜貫通ドメインの間には空間が存在し、サブユニットが四つ集まったときポアと呼ばれる親水性イオン透過路が形成されるようになっています。ポアの大きさとP loopはK+を選択的に透過するためのフィルターとして機能しています。

続いてもう一つ代表的なK+ channelとしてLeak K+ channelがあります。下図のようにサブユニットがポアの構造を二つ持つので2ポアドメインとも呼ばれます。

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以上のようにK+ channelは四つ(Inward rectifiers, Voltage-gated K+ channel, Ca2+-activated K+ channel, Leak channel)のタイプに大別できます。

■ K+チャネルの電気生理学的性質

1. Voltage-gated K+ channel

Voltage-gated K+ channelは構造の章でも説明したように6つの膜貫通セグメントと一つのP loop構造を持っています(6TM/Pと書くこともある)。

4つ目のセグメントS4がvoltage sensorとしての働きを持ち、膜電位の変化に応じてチャネルの構造変化を引き起こします。

具体的には静止膜電位から脱分極したときに開口し、またもとの静止膜電位に戻ると(過分極すると)、あるいは膜電位が脱分極のままでも閉口します。なぜ閉口するときの条件が二つあるかというと、Voltage-gated K+ channelの中にさらにいろいろな種類が存在するからです。

下図はあるタイプのVoltage-gated K+ channelをZenopus oocytesに発現させて、その細胞からvoltage clamp法で記録を取ったデータです。

 

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膜電位を-90mVに一定時間保った後脱分極パルスを加えて記録を行っています。記録を見てみると、脱分極直後に電流が最大流れ、脱分極を保持した状態で電流がゼロまで減衰していくのがわかります。

このチャネルはAタイプと呼ばれ、示したように脱分極により活性化し、活性化後膜電位によらず不活化するという特徴があります。Shakerとも呼ばれています。

2. Inward rectifier, Kir

Inward rectifier (Kir) は構造の章で説明したように、2つの膜貫通セグメントと1つのP loop構造を持っています(2TM/Pと書くこともある)。

Inward rectificationとは日本語で内向き整流という意味です。つまりInward rectifierは内向き整流作用を持ったチャネルという意味になります。

K+は細胞内濃度の方が高いので濃度勾配に従うと外向きに流れるのがふつうです。しかし例えば、膜電位がK+の平衡電位より低い場合はK+はクーロン力が濃度勾配による拡散力に勝るので内向きに流れることになります。

よってKirは膜電位がK+の平衡電位より高い(脱分極側)時にはK+の流出をブロックし、逆に過分極側になるとブロックが解けて内向きに電流を通すようになるという性質を持っています。

Kirの外向き電流のブロックの正体は細胞内液中に存在するMg2+(またはポリアミン)です。マグネシウムブロックと言います。細胞内にはMg2+が存在しています。この細胞内Mg2+がKirの孔を細胞内側から塞ぐことでK+の外向き電流がブロックされます。

Kirはサブファミリーを形成していて、ATP感受性を持つものやG proteinによって活性化されるものなどいろいろなタイプがあります。Kirを発現する細胞は心筋細胞と神経細胞です。

Kirの機能として実は外向き電流が重要です。脱分極時、内側からマグネシウムブロックがかかることは先ほど説明しましたが、K+の平衡電位から数mV脱分極側程度の膜電位ではマグネシウムブロックがあまり強くないためKirは外向きにK+電流を流します。

ですから、Kirは膜電位が平衡電位付近では開いている状態と考えてよく、膜電位をK+の平衡電位に維持する役割を果たしていると考えられます。

よく教科書でKirは膜電位を低く保持する役割があるなどと書かれているのはそういう理由からです。

3. Leak K+ channel

前の章"K+チャネルの構造"では基本的にK+チャネルは同一のサブユニットが四つ集まって一つのチャネルを形成していると書きました。

しかしLeak K+ channelはこの例外にあたり、同一のサブユニット(あるいは同一ではないが基本構造は同じサブユニット)が二つ集まって一つのチャネルを形成しています。

というのも、Leak K+ channelは一つのサブユニットあたり2つのP loopを持っているのでサブユニット二つでちょうどポアが形成されるようになっているからです。2つのP loopと4つの膜貫通ドメインを有しているので4TM/2Pと書きます。2 Pore domain K+ channelともいいます。

Voltage-gatedやInward rectifierと比較すると、膜電位に応じたコンダクタンスの変化がほぼないという点が大きな特徴となります。

Leak K+ channelは構造的かつ機能的に大きく6つのサブファミリーに分類されます。TWIK, TASK, TREK, THIK, TALK, TRESKです。これらは、細胞内液、細胞外液のpHやアラキドン酸、Ca等によって活性化、あるいは不活性化を受けることが知られています。それぞれの活性化因子や不活性化因子はサブファミリーごとによって細かい違いがありますが、この記事では割愛します。

以上からLeak K+ channelは膜電位非依存性に、細胞内外のpHや種々の分子による活性化、不活性化を受けてK+電流を通したり通さなかったりするチャネルであるということができます。

4. Ca2+-activated K+ channel

Ca2+-activated K+ channelは細胞質内のフリーCa2+濃度の上昇によって活性化されます。 膜電位による活性化は受けません。

細胞が活動電位を起こすと、電位依存性Ca2+チャネルが開口し細胞質内へCa2+が流入します。その際の細胞質内のCa2+濃度の上昇がCa2+-activated K+ channelの活性化を引き起こします。

Ca2+-activated K+ channelはLarge conductanceタイプ(BK)とSmall conductanceタイプ(SK)に大別されます。

構造はVoltage-gated K+ channelとよく似ています。BKは7TM/P、SKは6TM/Pという形をしています。BKはS1のN末側にもう一つS0という膜貫通セグメントがあってN末端は細胞外にあります。BKとSKには、C末側の細胞内の構造の中にCa2+を感知する構造があります。

SK channelは活動電位に伴って活性化することで急激に脱分極した細胞の膜電位をベースラインまで引き下げる効果があります。膜電位を脱分極させる仕組みもあれば、そのあと元通り過分極させる仕組みもあると考えるとわかりやすいでしょう。

また、SK channelは海馬のPyramidal neuronなどで活動電位直後に一旦ベースラインよりも膜電位が深く沈んだのちに、もとの静止膜電位に戻るAfterhyperpolarization, AHPという現象を引き起こします。

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これは活動電位によりSK channelが活性化され、K+の透過性がベースラインよりも高まったため、膜電位がK+の平衡電位により近づいたというふうに考えられます。

中脳黒質に存在するドーパミンニューロン(DA neuron)は、スパイクの直後にAHPの相に入り、そこからゆっくりと脱分極して次のスパイクに続くというパターンが特徴的です(下図)。f:id:emuqcqkihw:20160615225501j:plain

スパイクとスパイクの間隔(インターバル)が一定にコントロールされていることから、SK channelがペースメーカーとしての役割を担っていると考えられています。

 

BK channelの説明については、あとで書き足しておきます。