電気生理学の用語集(基本)

 

このページでは基本的な電気生理学の用語を確認しましょう。

■ 膜電位:細胞外をゼロとしたときの細胞内の電位。

■ 脱分極:膜電位がプラス方向へ動くこと。例えば-80mVの膜電位が-50mVに変化したとすれば、「細胞は脱分極した」と言う。

■ 過分極:膜電位がマイナス方向へ動くと。脱分極の反対。

■ 活動電位:神経細胞や筋細胞が急激に脱分極し、さらにその後急激な過分極を起こす現象。電位依存性Na+チャネルによるNa+の膜透過性の急激な変化が活動電位のメカニズムである。膜電位変化は細胞の中で起始部ほど大きく、起始部から遠ざかるにつれて減衰していくが、活動電位の場合電気信号が全く減衰せずに細胞の隅々まで伝わる。特に神経細胞ではその形態から、細胞体と軸索(あるいは軸索末端)の距離は大きく離れているため活動電位が重要である。筋細胞の活動電位は筋細胞の収縮を引き起こす。

■ コンダクタンス:直流回路では抵抗の逆数をコンダクタンスという。コンダクタンスの上昇は電流が流れやすくなることを意味する。例えば細胞膜上にあるたくさんのNa+チャネルがいっせいに開口した場合、細胞膜のNa+に対するコンダクタンスが高度に上昇したということができる。

シナプス:化学シナプスと電気シナプスの二つに分けられる。いずれも神経細胞の電気活動を別の神経細胞へ伝えるため神経細胞同士が近接している部分の構造のことを言う。シグナルを伝える方の細胞をシナプス前細胞 presynaptic cell、シグナルを伝えられる方の細胞をシナプス後細胞 postsynaptic cellという。

■電気シナプス:電気シナプスでは神経細胞の細胞質同士がgap junctionにより結合されている。よってシナプス前細胞とシナプス後細胞は電気的につながっておりシナプス前細胞からシナプス後細胞に電流が流れる。

■化学シナプス:化学シナプスではシナプス前細胞とシナプス後細胞がシナプス間隙と呼ばれる細胞外空間で仕切られている。化学シナプスシナプス前細胞のシナプスを構造する部位;シナプス前部とシナプス後細胞のシナプスを構造する部位;シナプス後部、そしてシナプス間隙から構成される。シナプス前部のうちシナプス間隙へ面する細胞膜をシナプス前膜 presynaptic membraneと呼びシナプス後部のうちシナプス間隙へ面する細胞膜をシナプス後膜postsynaptic membraneと呼ぶ。ちなみに化学シナプスをうつした電子顕微鏡画像は非常に有名であり、教科書ならなんでも載っているのでぜひ参照されたい。

シナプス後電流:シナプス前部からシナプス間隙に放出された神経伝達物質は、シナプス後部にある受容体に結合する。シナプス後部にある受容体は神経伝達物質により活性化されると、シナプス後部のイオンコンダクタンスを変化させる。このときのイオンコンダクタンスの変化によりシナプス後部に流れる電流をシナプス後電流という。シナプス後電流の方向が膜を脱分極させる方向である(細胞外→細胞内)場合特に、シナプス後電流は興奮性シナプス後電流 EPSCという。反対に膜を過分極させる方向(細胞内→細胞外)の場合特に抑制性シナプス後電流 IPSCという。

シナプス後電位:シナプス後電流が流れるとシナプス後部の膜電位が変化する。このときの電位変化をシナプス後電位と呼ぶ。シナプス後電位は、脱分極側に振れる場合特に興奮性シナプス後電位 EPSP、過分極側に振れる場合特に抑制性シナプス後電位と呼ぶ。

シナプス後肥厚 postsynaptic density:化学シナプス電子顕微鏡画像においてシナプス後膜直下にそれと並行するように観察される黒く密度の高い部分がありシナプス後肥厚と呼ばれる。シナプス後肥厚は神経伝達物質シナプス後細胞が受け取る重要な構造物であり、蛋白質が非常に密集しているため電子顕微鏡で黒くうつる。例えばNMDA受容体はneuroliginという蛋白質を介してシナプス後肥厚にあるPSD95(postsynaptic density 95)という蛋白質に結合している。PSD95はさらに細胞骨格と結合しており、NMDA受容体の足場蛋白質として受容体をシナプス後膜に安定させるのに重要な役割を果たしている。

■ active zone:シナプス前終末においてexocytosisが起こる部位のこと。小胞の膜融合に必要な蛋白が存在し分子密度が周りと比べて特に高いため、電子顕微鏡では黒く見える。