オペアンプってなに?

 

電気生理の代表的な実験であるvoltage clampやcurrent clampを考えるうえで、オペアンプの知識は必要不可欠です。サイトではこれまで生物学のみを学んでこられた方がオペ・アンプそしてpatch clamp amplifierの動作原理を理解できるようになることを目指しています。今回の記事ではオペ・アンプの基本を学んでいきましょう。

オペ・アンプの基本はとてもシンプルです。

以下がオペ・アンプの図記号です。それぞれの端子に名前を付けています。

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オペ・アンプ一つ一つには固有の値\( A \)があって、ゲインと呼ばれています。

オペ・アンプの性質は各端子の電圧に以下の関係が成り立つことです。

\begin{align} V_{out} &= A(V_+ - V_- ) \end{align}

ゲインはオペ・アンプの性能を表し、一般に大きい(\( ∞ \)に近い)方がよいとされています。”理想的”と言ったりします。

オペアンプの中身を覗いてみましょう。

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 プラス端子とマイナス端子は実は\(Z_{in}\)の抵抗により接続されています。この抵抗はインプットインピーダンス input impedanceと呼ばれ理想的なオペ・アンプでは\(Z_{in}=∞\)が成り立ちます。出力には電源が使われていて電源と出力までの間の抵抗\(Z_{out}\)をアウトプットインピーダンスoutput impedanceと呼びます。理想的なオペ・アンプでは\(Z_{out}=0\)となっています。このように理想的なオペ・アンプでは入力抵抗が非常に高く出力抵抗が非常に低く設定されており、「ハイ受けロー出し」として知られます。

オペ・アンプの「ハイ受けロー出し」の性質が実際の実験においてどのように役立つかをこの章の最後で簡単に説明したいと思います。

まずは下のオペ・アンプを用いた例を使って簡単な計算をいっしょにしてみましょう。

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理想的なオペ・アンプではインプットインピーダンスは\(∞\)ですから、電流はマイナス端子からプラス端子に流れません。よって\(i_- = i_f \)となります。よって、

\begin{align} \frac{V_{in} - V_-}{R_-} &= \frac{V_- - V_{out}}{R_f} \\ \frac{R_f}{R_-}(V_in-V_-)&=V_- -V_{out} \tag{1} \end{align}

ゲインを\(A\)とすると、オペ・アンプの性質から、

\begin{align} V_{out} &= -AV_- \tag{2} \end{align}

となります。

ここで\(\frac{R_f}{R_-}=k\)とおくと\((1)\)は、 \begin{align} &k(V_{in}-V_-)=V_- -V_{out}\\ &V_{out}=(1+k)V_--kV_{in}\\ &(1+\frac{1+k}{A})V_{out}=-kV_{in} \because(2) \\ &V_{out}=-\frac{k}{1+(1+k)/A}V_{in} \\ &\rightarrow -\frac{R_f}{R_-} V_{in} \tag{3} \end{align}

また、 \begin{align} V_-&=V_{out}+iR_F\\ &=V_{out}+\frac{R_f}{R_-}(V_{in}-V_-)\\ &=V_{out}+k(V_{in}-V_-) \\ (1+k)V_-&=V_{out}+kV_{in} \\&=(1-\frac{1}{1+(1+k)/A})kV_{in} \\&=\frac{(1+k)/A}{1+(1+k)/A}kV_{in} \\V_-&=\frac{1/A}{1+(1+k)/A}kV_{in} \\ &=\frac{k}{A+1+k}Vin\\ &\rightarrow 0 \tag{4} \end{align}

となります。

実はオペ・アンプではマイナス端子やプラス端子が出力と接続されている場合、それぞれの電圧が等しくなります。これはインプットインピーダンスとゲインが\(∞\)であることにより導き出されることですが、便利なのでオペ・アンプの性質として記憶しておいても差し支えないかと思います。

例えば上の回路図で\((4)\)より\(V_-=0\)となっているのは、マイナス端子の電圧と接地されているプラス端子の電圧が同じになったというふうに考えることもできます。

[補足] 特に、マイナス端子またはプラス端子が出力と接続されていて、かつ残りの端子が接地されている状態のことを仮想接地と呼びます。その意味は、直接接地されていない方の端子の電圧がオペアンプの性質によって0になっているということです。[補足終わり]

以下にオペアンプの性質をまとめておきます。

\begin{align} &V_{out} = A(V_+ - V_-), \\ &Z_{in} = ∞, \\ &A = ∞, \\ &V_+ = V_- (V_+またはV_-がV_{out}に接続されている場合) \end{align}

ちなみに今計算したこの回路にはinverting amplifierという特別な名前が付けられており出力の電圧が\((3)\)のようになることはぜひ覚えておきましょう。

では最後にオペ・アンプの性質であるハイ受けロー出しの効果を検討してみましょう。下の図を見てください。かなり簡略化したものですがWhole-cell patch clampの実験の模式図です。回路としては\(R_s\) series resistanceと\(R_m\) membrane resistanceそして膜電位\(E_m\)のみを考え、容量成分等は考えないことにします。電極はパッチクランプアンプへ接続されており、パッチクランプアンプへ流れる電流はゼロとします。電極の電圧\(V_e\)を計測するべく、電極をまずは直接電圧計に接続してみました。

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電圧計の内部抵抗を\(1MΩ\)、\(R_s\)はだいたい\(5MΩ\)で\(E_m\)は\(-60mV\)すると電圧計には\(-10pA\)の電流が流れることになります。このとき電圧計の読みは\(-10mV\)です。計測したい値が\(-60mV\)ですから話になりません。

今度は電圧計の内部抵抗を\(10MΩ\)にしましょう。電圧計に流れる電流は約\(4pA\)で電圧計の読みは\(-40mV\)になります。同様に内部抵抗が\(100MΩ\)のとき電圧計には\(約-0.57pA\)の電流が流れ\(V_e\)の値は\(約-57mV\)になります。この辺りまでくるとギリギリ許せるといったところでしょうか・・・。

実はwhole-cell patch clampにおいて\(R_s\)の値は一般的なオシロスコープのインプットインピーダンスや電圧計の内部抵抗に比べて十分に小さくないので直接電圧を図ろうとしても無視しがたい誤差が生じてしまうのです。

そこで登場するのがハイ受けロー出しのオペアンプです。下図を見てください。

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計算の簡単な部分はもう書き込んじゃいました。もう少し計算を進めて\(i_e\)を求めてみましょう。

\begin{align} i_e+\frac{i_eZ_{in}A-{E_m-i_e(R_s+Z_{in})}}{Z_{out}}=\frac{E_m-i_e(R_s+Z_{in})}{r} \end{align}

\begin{align} i_e(rZ_{out}+rZ_{in}A+rR_S+rZ_{in}+Z_{out}R_s+Z_{out}Z_{in})=Z_{out}E_m+rE_m \end{align}

\begin{align} i_e=\frac{Z_{out}+r}{Z_{in}(rA+r+Z_{out})+r(Z_{out}+R_s)+Z_{out}R_s}E_m \end{align}

ここではオペアンプのインプットインピーダンスを\(10GΩ\)、 アウトプットインピーダンスを\(100Ω\)、ゲインを10万としましょう。電圧計の内部抵抗は\(1MΩ\)にしましょう。

[補足]上図のようなオペ・アンプの接続の仕方はvoltage followerと呼ばれ入力電圧をそのまま出力として出すことができます。以下に数値を計算していますが、確かに入力電圧と出力電圧はほぼ同じです。voltage followerはよく出てくるので余裕がある方は覚えておきましょう。[補足終わり]

\(Z_{in}\)へ流れる電流は\(i_e\)で実際に計算してみると、\(0.00006pA\)です。出力電圧は\(-60.00006mV\)です。そしてこの値がそのまま電圧計の読みになります。このようにハイ(インプットインピーダンス)受けロー(アウトプットインピーダンス)出しのオペアンプを、電圧計と端子の間に配置することによって電圧計単独のときよりも比べ物にならないくらい良い精度で計測することができるのです。