シナプス研究とその歴史①

今回は以下の論文の内容をざっくりと紹介すると共にシナプス研究の歴史を勉強していこうと思います。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1365564/pdf/jphysiol01116-0148.pdf

1967年  KatzとMilediはイカの星状神経節を用いてある実験を行いました。

【補足】イカの神経は肉眼で見えるほど大きく実験しやすかったので電気生理の実験によく用いられました。1950年代にHodgkin and Huxleyが初めてvoltage-clampの実験を行ったときもイカ(Squid giant axon)が用いられました。神経節は神経と神経がシナプスを形成している場所のことを言います。【補足終わり】

その実験とは、刺激電極からシナプス前終末に電流を注入してシナプス前終末を脱分極させたときのシナプス前終末とシナプス後終末の電位変化を微小電極法により計測するというものです。下図を見てください。

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【補足2】微小電極法は微小電極を細胞内に刺し入れ電位を測定する方法。ホールセルパッチクランプとは異なり電流の測定と注入を一つの電極で行うことはできない。現在ではあまり行われていない。【補足2終わり】

刺激電極からシナプス前終末に電流を注入するとシナプス前終末は脱分極し、その電位変化は記録電極により計測されます。膜電位が閾値を超すとシナプス前細胞は活動電位を起こします。シナプス前細胞の活動電位の約1msec後にシナプス後終末が脱分極していることが図から読み取れます(シナプス後電位EPSP)。

次にテトロドトキシンTTXを作用させて活動電位を抑制して同様の実験を行います。シナプス前終末の脱分極が弱まるに伴ってEPSPも弱まっていることが分かりました。

さらに彼らはTTXまたはtetraethylammonium, TEA(voltage-gated K+チャネルのブロッカー)を用いてNa電流/K電流をブロックした状態で同様の実験を行いました。この実験によって、流れる電流の種類とは無関係に、シナプス前終末の脱分極がEPSPを引き起こすことが分かりました。

彼らはこの論文でカルシウム仮説を提唱します;1. シナプス前終末が脱分極するとシナプス前終末にCa2+が流入する。2. Ca2+の流入が引き金となって量子的(quantal)な伝達物質がシナプス前終末から放出される3. 伝達物質がシナプス後終末においてEPSPを引き起こす。お分かりいただけるように今から考えるととても正確なものです。

実はそれまでの研究で細胞外液にCa2+がないとシナプス伝達が起こらないことや、細胞の脱分極に伴い細胞膜のCa2+透過性が高まり細胞内にCa2+電流が流れることはわかっていました。

加えて彼らはこの論文の中で細胞外Ca2+濃度を変化させて、シナプス前終末の脱分極の程度とEPSPの値を比べて細胞外Ca2+濃度が高いほどシナプス伝達が起こりやすいことを知りました。

実験結果を追っていけば彼らがカルシウム仮説を思いついたのもうなずけるでしょう。

実はこのほかにも細かい議論が必要なのですが、みなさんはいくつ思いつくでしょうか・・・。