シナプス研究とその歴史②

今回は以下の2つの論文の内容をざっくりと紹介すると共にシナプス研究の歴史を勉強していこう(2回目)と思います。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1392564/pdf/jphysiol01439-0123.pdf

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1366292/pdf/jphysiol01412-0153.pdf

まず一つ目はFattとKatzによるもので1951年のものです。彼らはカエルの神経筋接合部に注目して筋細胞の終板電位 end-plate potentials, EPPを記録するという実験を行いました。

【補足】神経細胞が活動電位を起こすとそれに接続する筋細胞も脱分極を起こし収縮します。神経細胞の興奮による筋細胞の脱分極性の電位変化のことを終板電位, EPPと呼びます(シナプス後電位の筋細胞バージョンです)。【補足終わり】

その中で彼らは自発的で小さいEPPに注目します。

【補足2】自発的というのは神経細胞の興奮によらないEPPという意味です。【補足2終わり】

神経の発火に伴うEPPが70mV程度なのと比べて自発的なEPPは0.5mV程度と極めて小さい電位変化であったので、彼らはこれを微小終板電位 miniature end-plate potentials, mEEPと呼びました。

次に彼らはmEEPとEPPが同じ機序で起こるものであると示しました。

具体的にはプロスチグミン(コリンエステラーゼ阻害剤)を作用させるとmEEP/EPPともに増強される(脱分極の程度が大きくなる)ことや、AChRのブロッカーを作用させると両者ともに減弱することを実験で示しました。さらにmEEPは神経細胞の軽い脱分極によりその頻度を増すということもわかりました。

次にDel CastilloとKatzによる業績で1954年のものです。

彼らはまずそれまでの知見から「一つのmEEPは一つのAChRチャネルの開口によるものである」と考えました。そして彼らは仮説をもとに微小量のアセチルコリンを筋細胞に作用させてEPPの記録を行いました。すると微小量のアセチルコリンに反応してmEEPよりもはるかに小さい電位変化が記録されるという結果が得られました。

【補足3】のちにKatzとMilediはsingle AChRチャネルの開口による脱分極変化は0.3uV程度であることを示しました。【補足3終わり】

次に彼らは細胞外液のCa2+濃度を低くすることで、mEEPを記録していきました。どういうことかというと、まず細胞外液のCa2+濃度を低くするとEEPは著しく減少するということは知られていました。細胞外液のCa2+を完全になくしてしまうと神経の興奮に応答したEEPは非常に起こりにくくなります。より具体的には、神経の発火直後から、mEEPと同じかそれより少し大きい程度のEEPが時間をかけてバラバラと散発するようになります。こうして得られた波形はmEEPに他なりません。彼らはこの方法をとることでmEEPの記録を大量に得ることができました。

そして彼らは論文の中で得られたデータを下図のようにヒストグラムにまとめました。(注)実際に論文に掲載された図とはかなり異なります。(注終わり)

f:id:emuqcqkihw:20161104192334j:plain

縦軸はデータの数を表し、横軸は得られた波形一つ一つの電位変化(EEPの値)を表します。この図をよく見るとEEPは0.4mVの整数倍になっているところでデータの数が多いことが分かります。つまりEEPは何かを単位とする現象だということです。そういう意味でこれをquantal responseと呼びます。

そしてこの単位こそがシナプス小胞(の開口分泌)だったわけです。