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Series Resistanceとは ~パッチクランプ法における厄介者~

パッチクランプ法は神経細胞や筋細胞の電気活動を直接記録することができる方法なのですが、原理的にいくつかの制約があるため生体内でおこる現象を完璧に記録するということはできないことになっています。今回はその制約のうちSeries resistanceについて解説していきたいと思います。

Series resistance(Rs)とは通常、Whole-cell patch clamp法において「細胞質と電極の間の電気抵抗」のことをいいます。実験系や実験に用いる細胞によっても異なりますが、Series resistanceは10MΩ以下くらいが望ましいです。Pipette resistance(Rp:ガラス電極と外液の間の抵抗)は1~5MΩくらいあって、主にガラスピペット先端の穴の大きさと形に依存します。穴が大きければRpは小さくなります。ガラスピペットを細胞に密着させてwhole-cellの状態にしたときの電極と細胞質との間の抵抗がSeries resistance(Rs)と呼び、Rpと穴の開き具合に依存します。ピペット内径が狭くRpが大きい場合はRsは大きくなりますし、細胞膜につくった穴が小さい場合もRsが大きくなる原因となります。現実にはほぼあり得ませんが、ピペットの形通りに穴を開けることができたとすればRs = Rpとなります(多くの場合穴の大きさはピペット内径より狭くなる)。下の図を見てみましょう。

f:id:emuqcqkihw:20160629230127j:plain

 

図の左側はWhole-cellの状態を絵にしたものです。ガラス電極が細胞膜に密着させてあり、その部分で細胞膜が破れています。図の右側は絵の状態を等価回路に置き換えたものです。回路のアースについては、細胞外の電位を基準(=0)としたという意味です。Imは電極を通る電流、Rmは膜抵抗、Cmは膜容量、Vmは膜電位、Vpはピペット電位と呼び、Voltage clampの実験ではアンプで設定した電位のことを指します。

以下ではRsが実験にどのような影響を及ぼすか考えてみます。Voltage clampの実験では膜電位をどれくらい正確にコントロールできるかが重要となってきますので、VpとVmの間にどの程度の差があるかを計算してみます。

\begin{align} V_p-V_m &= Im \cdot R_s \\ \end{align}

ここでIm = 1nA, Rs = 10MΩ とおくと、

\begin{align} V_p-V_m &= 1nA \cdot 10M\Omega \\\ & =1mV \end{align}

以上からVpとVmの間で1mVの誤差が存在することになります。通常はこの程度の誤差は許容されます。ではIm = 10nA, Rs = 15MΩではどうでしょうか。

\begin{align} V_p-V_m &= 10nA \cdot 15M\Omega \\\ & =15mV \end{align}

 15mVです。これはどうでしょうか?15mVというと、例えば膜電位を-70mVで固定(クランプ)していたとすると実際の膜電位は-85mV(あるいは-55mV)になってしまっているということになります。これは無視できない大きい誤差と言えるでしょう。なぜかというと、膜電位は直接的にイオン電流の大きさに影響を与えるからです。そこで、Driving forceというものを考えてみましょう。Driving forceとはある一つのイオンに対して定義される値で、膜電位からあるイオンの平衡電位を引いた値のことです。数式で書くと下のようになります。

\begin{align} V_D = V_m - Veq & \\ \end{align}

例えばK+チャネルを通る電流は透過性が一定であってもK+のDriving forceが大きくなれば大きくなり、Driving forceが小さくなれば小さくなります。Na+チャネルやほかのイオンチャネルについてももちろん同じことが言えます。

Rsの問題点は、実験中変化することにあります。膜に開いた穴は、時間経過の中でふさがってくることもありますし、ピペットに引き込まれて中でつまることもあります。逆に突然穴が開いたり、ピペットの詰まりが急に解消されたりすることもあります。

もしイオン電流の記録中にRsが変化してしまった場合、膜電位は変化します。よってイオン電流のDriving forceが変わり、電流の大きさが変わってしまいます。つまり、イオン電流の大きさそれ自体は変わっていないかもしれないのに、記録上の電流は大きくなったり小さくなったりしてしまうといったことが起こるわけです。上の計算結果からわかるように、この誤差は流れる電流が大きければ大きいほど大きくなるという特徴があります。ですからRsの影響は記録する電流が小さいときは少なくて済みますが、大きい電流を記録する実験では無視できなくなってくるのでRsを小さく抑える努力をしなければいけないということになります。

Rsが大きくなると他に、電流のKineticsが遅くなって波形がなまってしまうという影響があります。これも生体内で生じる電流が正確に記録できていないという点でパッチクランプの問題点として挙げられます。

 以上のようにRsによる問題点を解消する方法として、Series resistance compensationという方法があります。これについてはまた次回以降で解説していきます。

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